彼女に人は殺せない

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 机の下で、僕の指がピクリと跳ねた。  雪見は続けて言う。 「噂にあるような桜の木じゃなくて、花弁だったんだけどね。いっぱい飛んでたんだ」  でも花弁があるってことは、近くに桜の木があるんだよ。  雪見の声は弾んでいた。  普段眠たげなグレーの瞳にはハイライトがかかっている。  これで周りの人は、彼女をポーカーフェイスと言うのだから面白い。どう取り繕ったところで、彼女の感情はわかりやすい。 「雪見も見たんだ」 「三澄も?」  「うん」と僕は頷く。 「そりゃいいや。じゃあ──」  即答を返す雪見に、僕は小さく溜め息を吐く。  なんてことだ。よりにもよって、雪見にあの桜を見られてしまった。  そして次の瞬間には、こう言うのだろう。 「「一緒に探そうよ、桜の木」」  雪見の声に言葉を重ねた。  彼女は小首を傾げる。 「あれ? なんでわかるの?」 「さっきも言ったろ」 「うるさいかー」 「声音がね」  即答すると雪見は深呼吸して、思いっきり両手で頬を叩いた。  小気味のいい音が、がらんどうの教室に反響する。  堪えるように「うんっ」と鳴いて、彼女は顔を上げた。その(まなじり)には、うっすらと涙の玉が浮かんでいる。 「まあ、根拠はあるよ。私やキミの他にも、結構な数の人が桜を見たらしいんだ」  スマホを取り出して、雪見がSNSの画面をスクロールする。
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