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「雪 桜」と入力された検索結果には、何件もの桜の花弁と降雪の画像がアップされていて、その中のいくつかの投稿がバズっていた。
「今まで桜なんて、ウワサ程度だったでしょ? それがこんな大々的に目撃されるって、初めてのことだと思う」
興奮を抑えていた声が、口数と共に大きくなっていく。
僕は机を指で小突いて考えてみた。雪見の理想と、桜の真相についてだ。
「そもそも夏に桜が咲いて、その上に雪が積もるなんて矛盾だらけじゃん。立派な特異点だよ、解決しなきゃ」
「言われてみればそうだね」
「でしょ? ついでに雪が降る理由も知りたい」
「そいつは楽しそうだ」
思ってもないことを口にする。
そんなこと、今まで何十回だって考えた。答えは出ないまま。
答えはわからないから答えなのだ、なんて諦めるために無理な嘘を吐いたりもした。本当はこんな矛盾した現象、決して認められるものじゃないのに。
「でも、君はヒーローじゃないんだろう?」
「免罪符でもないんでしょ?」
挑戦的なグレーの瞳が僕を見た。
ボーイッシュで寡黙な見た目に反して、雪見の舌はよく回る。
僕は机を叩く指を止めて、目を閉じる。浅い溜め息。目を開き、顔を上げる。
雪見を見据えて、口許に笑顔を作った。
「いいよ、付き合う」
雪見がニヤリと笑う。
軽く目許にかかった前髪を左に流して、手を差し出してきた。
「決まりだね」
「ああ。面白いことになりそうだ」
雪見の手を握り返す。
白くて柔らかい、フェルト生地のような手。女性っぽさの薄い彼女からは、想像できない感触。
手を離すタイミングを見計らって、一瞬視線が交差した。
中学の頃から時々あったことだ。僕は何とも思わない。
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