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「すごく笑えるのに最後はとても感動した。本当に素敵なお話だったなぁ。
あんな世界で生きれたらどんなにいいだろうって…。」
そこまで言いかけて、燕は口をつぐんだ。
黒く長い髪が彼女の横顔を隠し、その表情を見ることはできない。
「なんだか…僕もこの世界は全部モノクロに見える気がするんだ。」
「え?」
「ここから見える景色も、この落ち葉も、春の桜も。きちんと全てに色があるはずなのに、この世界で生きているとどれも同じに見える。
何を見ても自由に感情が出せないなら、結局は何を見ても同じなんじゃないかなって。」
拙い言葉だったけれど、ずっと考えていた違和感をポツリポツリと口にした。
「確かに意味のない争いはない世界だ。昔の話を聞く限り、今はみんな穏やかだと思う。犯罪もほとんどない。
けれど、お爺ちゃんのお葬式の時に泣いている人たちを見て思ったんだ。
みんな、唯一泣くことを許されている場所だから涙を流しているだけに見えた。お爺ちゃんが死んでしまって悲しいからじゃない。
結局そこでも、誰もみんな本当の感情なんて出していない気がしたんだ。」
僕の話しを黙って聞いていた燕は静かに空を見上げ口を開いた。
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