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「それで、礼に連れていかれた人達が戻ってきた時には、みんな感情がなくなっていたんだよね?」
お爺ちゃんに背を向けたまま、僕は次に読む本はどれにしようかと一冊ずつ吟味していく。前回読んだ本とは全く違った内容がいいかもしれない。
「感情を一切失くすことなんて不可能だよ…。今も昔も。きっとみんな自分の気持ちを隠しているだけなんだ。」
突然弱々しくなったお爺ちゃんの声に驚き、振り返える。
その時右手に持っていた本を危うく落っことしそうになった。
「うん、そうだね。だって今もみんな面白いことが起きれば笑うし、映画を観て泣くこともある。小さな子供がイタズラをしていたら道端で怒っている親なんかもいるよ。」
「そうだなぁ…。あの法律ができたばかりの一番厳しかった時代に比べたら今はまだマシなのかもしれない。
笑顔の人も、涙を流している人もいることにはいる。けどなぁ…。」
「けど?」
僕が問うのと同時に、僕のすぐ横にいたイノベもその硬い首を斜めに捻ってみせた。
「みんな、心からではないように見えるんだ。私が聞いてきた話では、笑顔でいることも涙を流すことも、怒りを見せることでさえも、昔はもっと感情に対して人は自由だった気がするんだよ。」
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