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「よかったら、これ。」
自分の持ってきた上着を燕に差し出す。
「でも…夏生は、」
「僕は大丈夫。寒くないから。」
本当は少し肌寒い。
けれど、自分よりも燕が風邪をひいてしまうことの方が嫌だった。
最近は特に気温が低くなってきたので学校帰りに少しだけ会って、早めに解散する日が増えた。
あと二、三か月もしたら冬になり雪も降りだすだろう。
そうなるまでに別の場所を探さなければ…。燕と会えなくなることだけは避けたい。
ありがとうと上着を受け取り、膝にかける燕を見て微笑む。
「この前貸してもらった本はすごく笑っちゃった。親が家にいない時に一気に読んだの。」
「ははっ、きっとそうなんだろうなと思ってたよ。燕、今回は読むのがとても速かったから。」
この頃から、僕も燕といる時は自然と笑顔になれる時間が増えていた。
今まで何かにつけて強張っていた表情が、彼女と話しをしていることによりほどけていく。不思議な感覚だ。
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