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「わくわくか。そんな言葉を聞いたのは久しぶりな気がするよ。」
お茶をすすりながらお爺ちゃんは目を細めた。
もともと垂れている目元が更に下がり、なんとも優しい顔つきになる。
垂れた眉に同じく垂れた細い目、筋の通った鼻に上がっている口角。
何もしていなくとも常に笑みを浮かべているようなお爺ちゃんの顔が僕は昔から羨ましかった。
僕もお爺ちゃんに似ていれば良かったのに、と子供の頃からずっと思っていたが母親譲りのキリッとした二重の目元はどう見てもお爺ちゃんの顔には似ても似つかない。
「わくわくって言葉、今回の主人公がよく使っていた表現なんだ。正直まだそこまできちんと感じ取ることはできないけれど、何て言うかこう…胸の奥がわーって高ぶる感じかなって。」
一度本棚に背を向け、少し興奮気味で僕はお爺ちゃんに先ほど読み終えた小説の感想を話す。
「けどね、やっぱり最後の方のページは刷りきれていた箇所も多くて…ちゃんと全部は読めなかったんだ。」
「そうか、まぁ仕方があるまい。あれも私の祖父から受け継いだ60年以上前の本だ。もう十分に古びている。」
そうだ…確か最後のページには
【2075年6月25日 初版発行】と書かれていたっけ。
今が2140年だから....「うん、ちょうど65年前の小説だったよ。けれどあれより前に読んだ本はページがくっついている部分が多くてさ。あれに比べたら今回のは格段に読みやすかったよ。」
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