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「こ、これ田中くんが作ったのかい?すごい、すごいよ!本物の映画みたいだ!」
思わず田中くんのスマートフォンを手にとってまじまじと観てしまう。
「大袈裟。動画の作り方くらい授業でもあるだろう。」
確かに授業でパソコンを使った動画編集等の作業はあるが、僕はそれが大の苦手だ。
だから純粋に田中くんの作った映像はすごいと思ったし驚いた。
「秋くん。」
ふいに、松田さんが田中くんの方を見て自分の左頬を指差す。
それを見た田中くんは慌てた様子で自身の口元を手で隠した。
「ど、どうしたの?二人とも。」
視線を交わしている二人は小さく頷いて僕の方を向き直し口を開いた。
「秋くんはね、普段むっつりしてるけれど結構笑い上戸なところがあって…けれどあまり笑ってたりするとやっぱり親や他の大人達に注意されるから、ね。」
「皐月は俺と比べたら表情を隠すのが断然うまいんだ。だから俺が危なくなったらいつもさっきみたいに教えてもらっている。」
『表情を隠す』
その言葉で僕は確信した。
やはりみんな、感情を完全に失っているわけではない。
表情を出したり表現したりすることも、きっと我慢している人は今の世の中にもまだたくさんいるのだと。
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