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ーー今から120年前の2020年。
謎の新型ウイルスが全世界を脅かした。高祖父である平清彦が今の僕と同じ16歳になる年だった。
「まさかこんなことが起こるなんて…。清彦、あまり外には出ないでね。マスクももう残りすくないし、万が一お父さんが感染したら大変よ。」
涙目の母に清彦はわかったと頷くことしかできなかった。清彦の父は肝臓癌を患っており、自宅から病院への通院を繰り返しながら闘病中だった。
清彦も父にもしものことが起こらないように最新の注意を払い生活をしていたが、16歳の少年から見ても今の世の中は異常だった。
みんな自分のことしか考えていない。
ウイルスの感染予防に必要不可欠だったマスクを一人で何箱も買い占め、生活必需品なんかも不足した。
出歩く人を咎め、マスクを付けない者を罵り、人と違う行動をとる人間を批判した。そんな光景を見続け、16歳の清彦は悲観した。
誰だってみんな自分が一番大切なのだろう。自分と、自分の周りのごく僅かな人間だけを大切に生きている。そして自分の考え方が一番正しいのだと思っている。
それは仕方がないことなのかもしれない。仕方がないのかもしれないけれど、こうも上手くいかないものなのだろうか。
感染拡大により学校へも満足へ行けなくなった清彦は、自身の部屋に籠り元々趣味であった小説を読んでいる時間が多くなっていた。
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