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「瑞樹君!大丈夫?!」
真っ先に俺の上半身を起こしたのは真琴だ。
今にも泣きだしそうな子供みたいに顔を歪めている。
「私の縄張りに現れたのが運の尽きね。当分の間は実体を持てないわ」
曳女が嬌笑しながら紫の扇子を閉じると、両端の親骨の先から小さな火花が散った。
「真琴がお前を追いかけていたのだ。迷い蛙と出くわしているのを見つけて店に飛んで戻って来た」
テツさんが真琴の背中に前足を当てて軽く叩く。
「迷い蛙って、さっきの?」
「迷い蛙はね、迷いがある人の心の隙に付け込む邪鬼よ。瑞樹君、テツ様に助けられたって事は……迷いがあったんでしょう?その時から目を付けられていたのね」
扇子を着物の帯に挿しながら言う。
「閻魔様への通過料って」
「インチキだ。そう言っておけば、じゃあ仕方ないって差し出すやつもいるからな。通過料とやらを払っても払わんでも、あいつに喰われたら迷いの森に引きずり込まれる」
「迷いの森?」
俺の身体を支えたまま、真琴が首を傾げる。
「永遠に出られない森さ。心も無い記憶もない。ただ彷徨い続けるだけの地獄より恐ろしい所よ」
真っ暗な森を独りで――。
想像して、全身の皮膚が粟立つ。
「真琴君、ありがとう」
「僕こそ、馴れ馴れしくてごめんね。友達ができるかもって思ったら嬉しくて」
金髪の柔らかい髪の間から、シルバーのピアスが月の光を反射する。
「……良いんだ。ありがとう」
「まあ、あんなのに目を付けられるなんて余ほど運の無い奴だ」
俺を覗き込むテツさんの口はするめ臭くて、思わず顔をしかめる。
そんな俺を見て、真琴と曳女が吹き出すように笑った。
「ここから出たいか、瑞樹。真琴」
俺よりも先に、真琴が迷いなく頷いた。
「テツさん、長い間ありがとうね」
「真琴はここに住んでいるんじゃないのか?」
訊ねると「君と一緒だよ」と肩を揺らして笑う。
「テツさんに時間を食べて貰ったからここに来たの。でももう充分。そろそろ帰るよ」
「時間を?」
「あぁ。まだ説明していなかったな」
テツさんがすっと俺の背後に――空へと視線を移動させる。
釣られるように振り返ると、巨大な朱色の鳥居が夜空に佇んでいた。
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