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めし屋、おつかれさん
「お前は生きている。おい、ホッケはじっくり焼くのだ」
カウンターの上から客席に向かって、猫じゃらしの腰蓑姿で陽気に踊っていた鯖トラの肉球が飛んできて、思わず「痛い」と叫ぶ。
これで三発目だ。
額を押さえて睨む俺に、テツさんは「火から目を離すな」と四発目の肉球パンチをお見舞した。
めし屋おつかれさんの店長であり、自称「神様」の鯖トラ「テツさん」は、口が悪くて手も早い。
おまけに人使いまで粗いときた。
「あ、あの……テツさん」
「あん?」
絵画の見返り美人のような振り返りと流し目をしながらも、口調は荒い。
「焦げそうです」
網の上で香ばしい匂いを放つホッケを、恐る恐る箸先でつまんで見せた。
リズムに合わせて両手を広げてくるりと回って、お尻を左右に振る。
「真琴はよく焼きが好きなのだ。客の好みに合わせろ」
俺は心の中で嘆息しながら、食堂のど真ん中で気持ちよさそうに熱唱する客を見遣った。
マイク代わりに手にしているのは麺棒だ。
純白無地の半袖シャツに、ウォッシュ加工のされた、だぶついたジーンズの男。
動くたびに腰のシルバーチェーンが金属音を搔き鳴らす。
金髪から覗く耳には、ぞっとする数のピアスが刺さっていた。
「いえーい」
真琴が上機嫌で歌いながら人懐こい笑顔で手を振ってきた。
慌てて視線を逸らして、しまった、と手が止まる。
ホッケは見事に焦げ、炭へと化していた。
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