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都心部から離れた寂れた住宅地だった。傾き始めた日の光に照され、古い住宅や安アパートが細い路地の左右に続いている。
閑散としたそこに響く、一つの足音。息荒く駆ける当間歩の口元には、笑みが浮かんでいた。
一見、少年とも見て取れる容姿している。身長は160センチ程度。太いデニムズボンに派手な柄のパーカー。そのフードが体の動きに合わせて揺れている。赤みのある黒い髪をしていて、顔立ちは色白で中性的。目元だけは鋭く、その瞳には強い好奇心の輝きが宿っている。
彼の成人を過ぎて五年を経た年齢、私立探偵というその職業を知れば、驚く者は多いだろう。そして彼の持つ特異な能力を知れば、更なる仰天を禁じ得ないだろう。
静かな住宅地を走る当間。その視線の先、アスファルトの上には、光る足跡が見えていた。彼はその足跡を辿って、細く入り組んだ道のりを進んでいく。
右折を二回、左折を一回したところで、光る足跡は道路を離れ、道沿いに建つ廃工場へ向かった。使われなくなって久しい様子。トタンの壁や屋根は錆で覆われ、入り口前の駐車場のアスファルトのひび割れからは草が伸びている。
当間は速度を緩める事なく駐車場を渡り、工場の扉へ手を掛けた。分厚い鉄の扉で、思い切り体重を乗せて引っ張ると、漸くガタガタと音を立てて横へ動く。
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