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「そういうお前も妙な時間にいるじゃねぇか」
赤星が応じる。
「僕は家庭の事情だよ」
「そりゃ大変だな。俺が危うく女性専用車両に押し込まれそうになったときの話を今度聞かせてやるから、今は見逃せ」
桐谷は赤星を素通りした。
「この間は六十位だったね」
中間試験の結果だ。雪朗は面倒そうにため息をついた。
「僕は首位だ。インフルエンザの時を除けば、一度も譲ったことはない」
「除くなよ。インフルエンザに負けんじゃねぇ」
「普通クラス落ちなんて恥ずかしくないのかい。…次の期末、勝負しよう。僕に負けたら君は進学クラスに戻れるよう努力するんだ」
一方的にまくし立てる。
「勝手に決めんな。お前が負けたら全校生徒の前でハーレクインロマンスでも朗読すんのか」
そう茶化すとようやく赤星を見た。思いのほか強い目だ。
そして雪朗に向き直り、耳元で何か囁いた。
雪朗の顔色がさっと変わった。
その反応に満足そうに鼻を鳴らすと、桐谷は立ち去った。二人でその背を見送る。
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