赤星雪朗のゲーム

4/10
前へ
/10ページ
次へ
 桐谷は知り合った頃の雪朗に似ていた。勉学以外の全てを削ぎ落とした禁欲的な雰囲気。  何を言われた? 口にしなかった問いがむずがゆい。雪朗が教室に入ってきたのを見て手を挙げた。 「昨日の件、不問になったぞ」  壁に大穴を空けた本人が断り続けたラグビー部への入部を決めた。指導部の教師はラグビー部の顧問でもあるため、そこで手打ちとなった。壁より頑健な体は試合でも活躍するだろう。  雪朗は応えない。五百円玉を音を立てて置いた。 「ゲームだ」  メガネのブリッジを中指で押さえる。 「これから俺は期末の勉強をする」 「挑発に乗んのか」 「ああ。で、お前は俺が怠けていたらスマホで撮る」 「あん?」 「サボらないよう見張れと言っている」  五百円玉を目の前にかざした。 「手付けだ。一枚撮るごとにくれてやる」  赤星は腕組みした。 「金はダメだ。目的はゲームの勝利、それだけじゃねぇと」  不正をしない。副次的な目的や代替目的を作らない。たった二つのゲームのルールだ。 「今回は特別だ。じゃあ、こういうのはどうだ」  ポケットからYシャツのボタンを十個ほど出した。どれもマジックでマークが描かれている。指で弾いて飛距離を競ったときの駒だ。 「こいつを流用する。仮装通貨だ。労働力と交換できる。掃除当番を代わるとか、ノートを見せるとか」 「…赤星雪朗コインってわけか。いいだろう。何枚でどんな労働と交換できるか値段表を作ろう」  赤星はスマホを取り出し数字を入力していく。 「で、ゲームはいつからだ?」 「今からだ」  カシャリ。  言った瞬間、カメラアプリの撮影音が重なった。スタンバイしていたのだ。 「毎度」  ニヤリと笑う。  雪朗は呆気に取られた後、ボタンを一つ指で弾いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加