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夜中、草木も眠る頃。
挙動のおかしな美青年アルフレッドが眠ったのを確認して、椅子は動き出した。目指すは客間、皆の集う場所だ。
客間には予想通りほとんどのメンバーがいた。
料理器具にカトラリーに長テーブルはもちろん、フットレスト、箪笥、クローゼット、客室のベッドまで。
椅子はそれらをぐるりと見回すと、一声かけて注目を集めた。
「今日集まってもらったのは他でもない、例の坊やのことよ」
「あの、顔のキレーな坊ちゃんか。まだいるのか」
フォークの問いかけに頷き、椅子は続ける。
「率直に言うわね。私は、あの坊やにはずっとここにいてもらうつもり」
「!!!」
無機物たちがにわかにざわめきだす。それぞれが口々に何か言うのを少し待ち、静まってから椅子は言った。
「あの坊やには、王子の友人になってもらうわ。なれるのなら、親友に」
「そんなの必要ない」
「あら、どうしてジャック?」
「王子たちには俺たちがついてるじゃないか」
ナイフの言葉に、そうだそうだと野次が飛ぶ。椅子はかぶりを振った。
「みんな、今の王子と、昔の、普通だった頃の王子を思い出してみて。そして比べて。彼はあんなに乱暴な気質じゃなかったでしょう。
彼の体と、私たちと、無理に連れてきた娘たちの態度が彼の心を見た目に合わせていってしまっていることに気が付かない?」
客室は静かになった。皆、思い思いに「王子」を思い出し、野獣の姿になった彼を浮かべ、口を閉ざした。
「ふつうに接してくれる、ふつうの人間の友人が必要だわ、彼には。そしてそれはあの坊やにしか務まらない」
「だが、あの子供は王子のことが好きなんだろ。友人になんてなれるかな」
そもそも「あの」王子に恋をしている人間がふつうと言えるのか、とはさすがに誰も言わなかった。誰だって自分の主人を化け物だと大声で言いたくはない。
「それでも王子が相手にしなければ嫌でも友人どまりになるわ。それに、もし王子が坊やを受け入れるならそれはそれでいいじゃない。『魔女の呪い』は性別までは指定してなかったはずよ」
無機物たちには、椅子のウインクが見えた。ふむ、とか、ううん、といった呻きが随所から聞こえてくる。
少し待つと、椅子は決をとった。
「坊やをここに置いておくのに、賛成の者。………反対の者」
反対は、ナイフとフォークだけだった。
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