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騒がしい朝、役立たずの台風
目を覚ます。
見慣れた天井。色の褪せた天蓋つきのベッド。
片手を挙げれば昨日と同じ、余すところなく茶色の毛に覆われた自分の手が視界に入る。
──まだ、現実だったか。
落胆のため息を吐いて身を起こす。待ってましたと言わんばかりにフットレストが足元に滑り込んできて、それがおかくて喉で笑う。そうして耳に届いた自分の、低い、しわがれた、獣の唸り声によく似た笑い声がまた絶望を増幅させた。
鏡はもうずっと見ていない。
「こう」なってからどれほどの時が経ったのか、正確には覚えていなかった。長い悪夢なのではないかと毎晩淡い期待と共に眠りにつき、目覚めれば失望するばかりの日々。
それだけで十分苦しんでいるというのに最近は新しい恐怖にも蝕まれ始めた。
これは、こんな見てくれになった自分の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる、召使いたちにもまだ気づかれていないことだ。だがきっとそれも時間の問題で、すぐに知られてまた心配をかけるに違いなかった。
「魔女の呪い」は強力だ。自力でどうこうできるものではなく、解くには指示に従うしかない。
始めは頑張ったのだ。まずは我が身可愛さに、自分の元の姿を取り戻すために。次に、巻き込んでしまった召使いたちへの罪滅ぼしに。だがどうしてもうまくはいかなかった。
昨日だって、人質まで取ったのに捕まえた男二人に逃げられた。
残され裏切られたあの変な子供も今頃はとうに森を出ているだろう。
こんな森の奥に一人で踏み入る未婚の娘、というだけで条件は厳しいのに、さらにその娘に愛されろだなんて。
もう、疲れた。
もういい。召使いたちには悪いが、薔薇が枯れるのを待つしか、今の自分にできることはない。
────そう、諦めきった次の瞬間。
バァアン!! と、寝所のドアが開け放たれた。
「おはようございます麗しの君よ!!!!」
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