劣悪サイア

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劣悪サイア

 最初に感じた違和感は、異臭だった。なんだかゴミが腐ったような不潔な臭いがする、と。 「ポンタ、あんたどっかでトイレ失敗したぁ?」 「わふ!?」  仕事から帰ってきた私がそう告げると、ゴールデンレトリーバーのポンタは心外と言わんばかりに鳴いた。自分は無実だと言わんばかりにリビングの中をぐるぐると回る。確かにトイレはした形跡があったが、しっかり檻の中のトイレシートの上だった。これが匂っていたのかな、と思って片づけたところで、窓が少しばかり空いていることに気づく。 「あ、ちょっとポンタ!勝手に窓開けちゃダメじゃん!」  私が住んでいるのは、マンションの五階だ。窓を開けていてもそうそう侵入されるような心配はないが、だからといって仕事中ずっと開けっ放しというのは問題がある。ただ、ポンタは窓を自力で開けるだけの力はあっても(ただし、運が良くないと開かない)鍵を開くだけのスキルはない。鍵をうっかり開けっ放しで出かけてしまったのだとしたら、それは私の咎だろう。  やれやれ、と思いつつ窓に近づくと、ポンタはするりと私の横をすり抜けて窓の方にダッシュしてしまった。そして鼻先で器用に窓の隙間を広げて、ベランダに出て行ってしまう。 「ちょっと、ポンタ!」  普段はおっとりしているくせに、逃げる時と遊びたい時の行動だけはどうしてこう俊敏なのだろう。もちろんベランダは狭いし、出たところでそれ以上どこかに行けるわけでもないのだが。それでもポンタは、ベランダで日向ぼっこをするだけでも気持ちが良いらしく、ことあるごとに外に出たがるのである。  とはいえ、犬がベランダに出ているのを嫌がる住民もいる。すぐに散歩に連れていくかな、と私が思っていると。ポンタはベランダの一角で、唐突に立ち止まりくんくんと臭いをかぎ始めたのだった。 「どした?」 「くー……」  私の呼びかけに、ポンタは何とも言えない表情で見上げてくる。ベランダに出たところで私は、部屋で微かに嗅ぎ取った異臭が外からしてきていることに気づいたのだった。ベランダか、あるいは近隣の家か。どこかで掃除や工事もやっているのだろうか、とやや渋い気持ちになった。仕方ないこととはいえ、ゴミのような臭いがベランダに充満しているのは耐え難いものがあるのである。
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