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彼女はいつも虚な目をして出窓から外を眺めていた。
珊瑚の色の唇と琥珀の瞳を潤ませて帰らぬ恋人の姿を物言わず待ち続けている
マデリーン 僕の愛しい女性。
この国の冬は長い。
雪解けの気配は遥か遠く
凍りつく寒さは春を待つ心の力すら奪い始めている。
「......うそつき。」
マデリーンは疲れ果て 輝きを失った瞳で悲しく笑った。
恋人は彼女に言った。
僕は必ず帰ってくる。僕がつける足跡は真っ直ぐ君の元にしか向かわない。
だが彼女の目に写るのは汚れなく広がる雪原
の白。
このまま世界は雪に埋もれてしまえばいい
彼への想いなど 覆い被してしまえばいい
そう 最初から こうだったのよ と
全て 笑い話の 夢に出来れば。
白い息に溶けてしまう程の
か細い声で彼女はそっと呟いた。
ああ マデリーン 愛しているよ。
ああ 言葉に出せたら。
雪は今日も 降り積もる
静かに 優しく 彼女の心に
ああ マデリーン 僕は会いに行くよ
君があの窓から 僕に手を振るまで
いつでも 君の笑顔を抱きしめられるように
目に見えぬ
血で赤く染まった手を洗った後で。
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