4(西園寺 亜裕太さん)

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4(西園寺 亜裕太さん)

結局どれだけ探しても円香のお年玉は見つかることは無かった。 3時間ほど探したが、この人ごみでは捜索可能範囲も限られていた。 最後に巫女さんに聞いてみることにした。YONYONの店員を待たせているので、これ以上時間はかけられない。聞いてみて無かったら諦めよう。 「あの、すいません……お年玉の落としものって届いてないですよね……」 泣きそうになって尋ねると、巫女さんは困った顔をして答えた。 「うーん。届いてないなぁ……」 「そう、ですよね……」 落胆して帰ろうとすると巫女さんに呼び止められた。 「ねえ、一応電話番号書いといて。もし届いたら電話するからさ」 言われるがままに電話番号を書き終えて巫女さんに渡すと、そのまま巫女さんが両手で円香の手を包み込んだ。 「あの何してるんですか?……」 突然温かい手で包み込まれて困惑する。 「私なりの励まし方。なんか力を注いでるみたいで良いこと置きそうじゃない?」 確かにお正月に巫女さんに手を握られたら、なんだか少し良いことが起きそうな気もした。円香はお礼を言ってその場を去った。 円香がYONYONに戻ってみると佐上はまだレジにいた。 「あの、すいません。お年玉……無かったのでフィギュア諦めます……」 円香は涙を堪えて伝える。お年玉が無くなってしまった以上もう買う手段は無い。 「そのフィギュアいっぱい入荷したけど余っちゃって困ってるから、君に持って帰ってほしいんだよね」 佐上はできるだけ困ったような表情を作ってはいたが、円香にはフィギュアが置いてあった棚が空になっていることも、このフィギュアが大人気で余ることなんてあり得ないこともわかっていた。 「でも……」 今この場で好意に甘えないとフィギュアは二度と手に入らないかもしれない。しかし貰ってしまうとおそらく佐上は後で店長にこっぴどく怒られるだろう。 「ごめんなさい、お気持ちは嬉しいですけどやっぱり商品を頂くのは……」 断ろうとしたときにちょうどスマホが鳴った。巫女さんからだった。 “なんか今お賽銭箱の近くでお年玉拾ったっていう人が来たんだけど” 円香は佐上の方を見た。佐上は笑って頷いた。 「フィギュアはもうちょっとだけここに置いとくよ」 佐上に深々と頭を下げて神社に向かって走り出した。
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