3(ルカ)

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3(ルカ)

(あるはずないよ……) 今日は円香にとって最良の日になるはずだった。 なぜならば、今年はアメリカから叔父が帰って来て、円香にお年玉をくれたからだ。 数少ない親戚は、遠方に住んでいることもあり、疎遠だ。 だから、お正月にお年玉をもらうことなんてなかった。 いつも、友達からお年玉の話を聞いては、ただ羨ましく思うだけだった。 それなのに、今年はふらりと叔父がやって来て、円香にお年玉をくれたのだ。 叔父が帰国したことは、誰も知らず、だから、円香もまさかお年玉をもらえるなんて、思いもしなかったのだ。 円香には欲しいものがあった。 今、夢中になっているアニメキャラのフィギュアだ。 新年から、1000体限定で販売されるシリアルナンバー付きのもの。 価格は、高校生の円香には簡単に出せるものではなかったから、端から諦めていた。 だけど、叔父にお年玉をもらったことで、その夢が叶うのだ。 高いだけにしばらく悩んだものの、こんなチャンスは二度とない。 もしかしたら、もう売り切れてるかもしれないけれど、万一、手に入るのならぜひとも買いたい! そう決心した円香は、心弾ませ、家を出た。 そのまままっすぐ店に向かえば良かったのだが、円香の家の近くには神社があり、そこで、フィギュアが買えますように!と願ってから行けば買えるのではないかと…円香は、ふとそんなことを考えたのだ。 しかし、その考えが逆に災いした。 まさか、お年玉を落としてしまうなんて、円香が予想するはずもなかった。 (絶対にないよ……) 神社にはたくさんの参拝客がいた。 誰かが拾ってくれたとしても、その人が正直に届け出てくれるとは思えなかった。 円香の大きな瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
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