0人が本棚に入れています
本棚に追加
キレイに
この国には、「闇」がある。「闇」と呼ばれる不思議な力が。誰も、見たことも触れたこともない。
しかし、それは確かに存在するのだ。
料理はできる。
買い物も、何故かおまけをもらうくらいにはこなせる。
洗濯も、もちろん、掃除もできる。
楓は、何においても、広く浅くが基本だった。
見た目は、「かるい」とよく言われた。それを否定できないくらいに、よく言えば、人付き合いがよい。来る者は拒まないし、去る者は追わない。わりと積極的なほうだし、落とすと決めたら必ず落とす。
それが、楓だった。
最近、それに変化があった。
寝起きする場所も、その時々で変わっていたのが、一定になったのだ。
それは、街の広い通りを入っていった路地の奥にあった。
主は、黒樹という少年だ。正しくは、少年のように見える、なにか。黒い髪と黒い瞳を持つ、クールな雰囲気を持つ少年だ。
彼は、そこで、魔術を使った捜し物の情報提供をしていた。
楓の帰り道は、いつも同じ。複雑で細い路地を歩き、店舗側の扉から中に入る。
今日も、その通りにするつもりだった。
商店街で、お手伝い程度の仕事をして少しの収入を得て、帰路についたところだ。
楓は、数m先に見える現在の我が家を前に、神妙な顔つきで立ち止まった。そして、じっと行く先を見つめたあとで、来た道を引き返す。
住居スペースの方から帰ることは、めったにない。
そっと中に入り、扉を締める。
「おや、おかえり、楓」
同じタイミングで、店側から黒樹が入ってきた。
何故か、楓の笑顔は引きつった。
「た、ただいま」
「珍しいじゃないか、ちゃんと玄関から入ってくるなんて」
「悪い予感がして」
最初のコメントを投稿しよう!