泥棒、企む

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泥棒、企む

 「それがいい! 行ってこい、泥棒!」  「そうだ!  泥棒なら学校に忍び込むなど容易いだろう!」  「すごいぞ、ヒカリ!  おまえは頭が良い!」  祖父と執事が目を輝かせている。  我ながらナイスアイディアね。  ヒカリは、自分の閃きに満足した。  「素晴らしいですわ、お嬢様!」  「さすがだ!」  他の使用人たちの声を聞きながら大きく頷く。  全てが肯定されることは、ヒカリにとって当たり前である。  「あぁ? 勝手に決めてんじゃねーぞ」  泥棒は耳を掘りながらそっぽを向く。  ヒカリは眉を寄せた。  (何だろう、この感じ)  「やったら見逃してあげるわ。さっきの件」  「……」  「わたしが、あんたを使ってあげるって言ってんのよ」  まるで手応えがない。  泥棒は、こちらを向こうともしないのだ。  自分が何かを欲すれば、祖父や使用人たちは喜んで動いてくれるのに。  初めての感覚に戸惑う。  「たった今から雇ってあげる。これは命令よ。行って」    珍しく自分がムキになっていることに、ヒカリは気づいていなかった。  ♡ ︎ ︎  「まあ……報酬によっちゃ、やってやらないこともねえがな」  カゲは、自分を見下ろす面々をぐるりと眺めて口の端を歪めた。  「成功すれば考えてやる。  その後はさっさと出ていくんだな、このコソドロが」  春平と目顔でやり取りすると、橋倉が言った。  「じゃ、よろしく」  そう言って背を向けるヒカリは、どことなく不機嫌そうであった。  メイドたちと春平が慌てて追っていく。  書庫には、カゲと橋倉だけが取り残された。  「いくら金持ちだからってよぉ。  ちょっと歪んでねえか、この家の教育方針?」  「無駄口を叩く暇があるなら、さっさと行かんか」  橋倉はカゲの言葉には反応せず、事務的に言った。  「異常だ」  「泥棒に何が分かる!  まだまだ尽くし足りんわ!」  激昂する橋倉。  「お嬢様は、お小さい頃にご両親を亡くされたのだ。おいたわしい!  我らがしていることなど、お嬢様にはほんの小さな慰めにもならん……」  グスンと鼻を鳴らす橋倉を横目に、カゲは「どうでもいいけどな」と呟いて立ち上がった。  「おい! 出口は反対だぞ」  「うっせえ、トイレだ!」  カゲは素早くレストルームのドアを閉める。  橋倉に『トイレさっき行ったじゃん』的な目で見られたくなかったからだ。  (もう一度トイレしとかないと不安……!)  「仕事」前だ。  念には念を入れた方がいい。  落ち着くと、カゲは便座に腰掛けたままニヤリとした。  ただでガキのワガママに付き合うつもりではない。  (あのジジイ、見覚えがある。財界の鉄人、胡桃沢春平。  唯一の弱点は孫……あのクソ生意気なガキらしいな)  上手くすれば、大金が引き出せるか──。  
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