♡エピローグ♡

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♡エピローグ♡

 テレビ画面の中で、美しい青年が一心不乱にピアノを弾いている。  ヒカリは画面に吸い込まれるように立ち上がった。  カシミヤのストールが、華奢な肩を滑り落ちていく。  「最近デビューした新人のピアニストでございますね」  テレビ画面を一瞥し、橋倉は即答した。万能である。  ヒカリの瞳が爛々と輝き始めた。  「彼の資料を集めて……!  明日まででいいわ」  「かしこまりました」  橋倉が、うやうやしく頭を下げる。  「何だ何だ、こんな軟弱そうな男に熱上げてんのかぁ?  ガキには百年早いぜ」  ヒカリの様子を見たカゲは手を振ってせせら笑い、続いて「いっ!」と顔をしかめた。  橋倉が表向きは穏やかな表情でヒカリの側に控えながら、カゲの足を思い切り踏んづけたのである。  ピアノの青年に釘付けのヒカリは気づいていない。  「橋倉」  「はっ」  番組がCMに入ったところで、ヒカリはようやく顔の向きを変えた。  「適当に報酬渡しといて。カゲに」  「承知いたしました」  (あいつ、さっきの報酬の話、聞いてやがったのか)  とてもそんな風には見えなかったが。  「ねえ、カゲ」  ふいに名を呼ばれ、ハッとなった。  あのガキ、執事から聞いた名前を覚えてたんだ。  それだけのことが、妙に胸に残る。  「明日から、わたしの護衛について。  橋倉もありがと。下がっていいわよ」    カゲなんて、同業者が勝手に呼んでるだけだ。  自分の本当の名前なんざ覚えちゃいない。  だが。  (生意気なガキだが、人を引きつける素質はあるらしいな……)  財界の鉄人の血を引くだけのことはある。  「フン。俺は気まぐれだし、使われるのも嫌いなんだ。  いつまでいるか知らねーぞ」  言いながら、カゲは内心ほくそ笑んだ。  金目のものをごっそり引き出すには、雇われておいた方が都合が良い。  金持ちに恩を売っておいて良かった──。激しすぎるミッションだったけど。  「わりいな、オッサン」  部屋の外へ出たところで、苦虫を噛み潰したよう顔の橋倉に向かって言った。  「お嬢様は慈悲深いお方なのだ。  くれぐれも裏切るような真似はするなよ」  橋倉に釘を刺される。  「そう言うしかねえよなぁ。  お嬢様のご命令は絶対、だもんな!」  カゲが頭の後ろで手を組んでニヤリとすると、舌打ちだけが返ってくる。  「俺の寝床は?」  「今考えとる。私のことは橋倉様と呼べ」  「頼む。トイレの近くにしてくれ」   ︎ ︎ ︎  さて──。  ヒカリお嬢様は、美しいピアノ男子にときめき始めた。  泥棒と恋に落ち、(さら)ってもらうという妄想はこの瞬間に忘れている。  “危険な香り”系ブームが終わったのである。  画面越しのピアノ男子に、今度は何を期待しようというのか。  そして、カゲは。  まんまと胡桃沢邸に入り込めたと喜んでいるようだが、万能執事の監視の中、大金を引き出すのはなかなか骨が折れそうである。  今後の展開、覗いてみたくはあるが──。  それはまた、別の機会に。    ◇泥棒編◇完  次回は✨🎹ピアノ男子編🎹✨  https://estar.jp/novels/25776632  
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