5人が本棚に入れています
本棚に追加
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『…………』
彼から、俺自身の過去の話を聞いた晩。
俺は「その日の夜は満月だろう」と何となく分かっていた。だから、その日は一度も敷いた事のない布団を使った。
そして、俺が思っていた通り『睡魔』が襲ってきて、そのままその眠りに身を預けた。
『……そうか。この靄は、俺を驚かせないために徐々に薄めていたのか』
多分、この靄を出していたのは彼の兄……つまり、俺の父親だろう。
狐の神に限った話ではないが、神様と呼ばれる存在……もっと言えば『力の強い神』は時には天候すら操ることが出来るらしい。
明神曰く「俺以上に兄は力が強い」と言っていたから、この状況は納得が出来る。
『……俺の事を心配してくれたから、こうして会いに来ていたんだな』
神である父親はともかく、人間である母親は、この世に亡霊として出て来て彷徨ってしまえば、狛犬のあいつらに追われる。
その結果として「俺に迷惑をかけてしまう」と二人は考えたのだろう。
通常であれば、死んでしまえばこういう形で会う事も叶わないのだが、こうして少し靄はかかっているものの、俺の前にいられるのは……多分。父親の力が強いからだろうと考えた。
最初のコメントを投稿しよう!