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「それにしても……」  彼らが去った後も、俺はそのキレイな風景に自身の尻尾を無意識に動かしてしまうほど、釘付けになった。 「…………」  俺は四本の尻尾を持つ『天狐(てんこ)』だ。  なんでも『天狐』という存在は狐の階級の中では最上位らしく、ほとんど神のような存在らしい。  だから、俺はこうして自分の社を持っているワケなのだが、実は分かっている事は『それだけ』で、後の事は何も分からないし、知らない。  それこそ、自分がどこで生まれた……とか、自分の両親の事とか、そもそも兄弟がいるかどうかすらも分からない。  正直なところ。俺は『どこの馬の骨かも分からない』という表現が、合っている様に思う。  ――まぁ、たとえ『ほとんど神のような存在』とは言え、狐ではあるのだが。  そんな得体の知れない俺に、なぜか『俺を拾った神』は、この社を俺に任せた。  確かに、俺は修行をしてはいたが、こんな風に任せられるのなんて……と思っていたし、たとえ運よく任されたとしても、もっと時間がかかると思っていた。 「……む?」  時間も忘れて満月を見とれていると、突然自分の視界が緩んだ。 「なっ、なんだ?」  自分に起きている『異常』とも言える状況が分からないながらも、何とか『狛犬の彼ら』を呼ぼうとしたところで……。 「うっ……」  そこで俺は倒れた。 「…………」  そもそも、俺のような『存在』は夢を見る事はおろか、寝る事すらない。それなのにも関わらず、突如としてなぜか睡魔の様なモノに襲われた。
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