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夏
「ふぅ」
季節は変わり、あっという間に『夏』になった。
日中はとてもじゃないが外に出るのもおっくうになるのだが、さすがに夜になると、その暑さもさらに落ち着いて多少は過ごしやすくなる。
「……今日も満月か」
それに、ここは比較的涼しいのか、たまに『森林浴』とか言って、ここを訪れる人間がたまにいる。
ただ、ここに来る人は大体がここが神社だと知らないらしい。
そうして、社を見てようやく神社だと知った人間がたまに「ついで……」と言ってお賽銭を投げて『願い』を言って行く。
だが、残念ながら俺には叶えられるほどの『力』なんて、ない。
そもそも『願いを叶える』のは、俺を拾ってくれた『彼の様な存在』であって、俺がするのはあくまで『願いの選定』までである。
まぁ、この『願いの選定』が出来るようになって、こうして自分の社を持つようになる前に……人間の寿命は尽きてしまうのだが。
「あのぉ」
「ん?」
「いっ、いえ! その……大丈夫かな……と思いまして」
「??」
おしゃべりな狛犬が何を思って、そんな事を言ってきているのか、俺には全く心当たりがない。
「あの、この間……」
「ああ」
そこまで言われてようやく思い至った。
どうやら狛犬が言っているのは、春の満月の晩に俺が倒れた時の事を言っている様だ。
あの日倒れた俺は、眠ったまま一週間ほど目を覚まさなかったらしい。
正直、今までも何度か倒れてはいるのだが、おしゃべりな狛犬だけでなく、相方の方もあまりにも驚き過ぎて、思わず本社にいる『俺の親代わりともいえる神』を呼んだ。
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