理想的な一日

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 クリスマスも終わり、いよいよお正月ムードが迫ってきている。バイト先のホームセンターも、社員の人が一日かけて作業を行い、いつの間にか陳列棚(ちんれつだな)が様変わりしていた。  ガタイが良いせいかトラックに乗る姿が異様に似合う、その社員さん。「大変だったよ」なんて軽く笑って、今日も今日とて仕事に精を出していた。  僕はそんな社員さんを見てとても(みじ)めな気持ちになったんだ。  アパートに帰り、(さみしい)しいワンルームを見渡す。決して汚部屋(おべや)というわけじゃないけど、テーブルの上には飲み終えたペットボトルや空き缶が並び、洗濯籠(せんたくかご)から(あふ)れんばかりの衣類。  この部屋は月に二回ほど綺麗になる。洗濯物を一気に洗い、ゴミを片付ける。掃除機をかけて換気をして、そうするととても気持ちも落ち着いてくる。でも、服を着続ければ溜まるし、日常を過ごせばゴミも溜まる。  僕は掃除が嫌いだ。重い腰を上げてせっせと綺麗にしてクタクタになっても、すぐに散らかって嫌になる。  僕にとって掃除とは、片付けることとは労働であり、行為以上の疲労がたまるものだ。バイト先の社員さんのように、一日かけて模様替(もようが)えした後に、次の日も笑顔で出勤なんて到底できないだろう。  しかし、そんな僕でも。そろそろ行わないといけない。  年末恒例の大掃除。  実家に帰るときに、両親が迎えに来る。その際に散らかった部屋を見せたくはない。  この大掃除は毎年少し違う気持ちで片付ける。なんせ、もうすぐ一年が終わるという時期だ。どうしても、過去の自分や過去の部屋と向き合ってしまう。  高校の頃から本が好きだ。文庫本より分厚い単行本が好きだ。部屋の壁に天井まで伸びる本棚の半分は単行本で満たされている。ちょくちょく買い(あさ)っていたらこの量になったが、四分の一はまだ手を付けていないし、全部読み終えてない作品もある。  壁にはどこかの街の写真が額縁(がくぶち)に入って(かざ)ってある。おしゃれだからという理由で、入居時に買ったけど、もはやこの堕落(だらく)した部屋では浮いた存在だ。  そういうものに触れると、思い出すのだ。僕は、この部屋をカフェみたいな落ち着いた空間にしたかったのだと。  そう思いだせば見えてくる。使わなくなったコーヒーメーカーも、値段は張ったがリラックスして座れるソファも全部そんな、カッコつけたコンセプトから始まったんだ。  そんな部屋を作り、そんな部屋を汚した僕が。ひどく惨めに思える。こんなことになるなら、最初っから安物で着飾った部屋がよかった。そうすれば、いくら汚しても、浮つく物はなかっただろう。  惨めさを慰めるように少し休憩をすることにした。外の自販機で缶コーヒーを買ってきて、ソファに座って前に読みかけていた本を読み返し始める。  我ながらよくこんないいところで読むのをやめれたものだ。  ため息を吐いて、その本の中に引き込まれていく。
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