1人が本棚に入れています
本棚に追加
203号の姿も汚れてしまっていた。ぼさぼさの髪に、しわだらけのシャツ、汚れのついたスカート。
文学少女というより、どこか幸薄い感じの女性。イメージが大きく変わった。
「なんだか部屋が狭くなったようで、息苦しいですね」
「……あぁ、そうだね。僕らも随分と変わってしまった」
長いもので、来年の春には僕らは三年の付き合いになる。長いようで短い、三年で変わり果てたという見方もできるが、なるべくしてなったといってもいい。
「本当に、生き苦しくなってしまったよ」
「ですが。私たちは、まだ戻れますよ」
「いや、戻る必要なんかはない」
どこかで読んだことがある。聞いたことではない、だから何かの小説で読んだのだろう。
――部屋は己を写す鏡である。
この言葉を見た時の僕は、部屋はその人の趣味で溢れているから、その人となりが分かる的なものかと思っていた。でも違うんだ。
「身の丈に合ってない着飾りをするべきではないんだ」
毎日コーヒーを何杯も飲む必要はない。朝昼晩すべて自炊しなくたっていい。そんなにたくさんの小説を読まなくていいし、感想をブログにいちいち書かなくてもいい。好きじゃないお酒で無理やり酔うなんて滑稽だ。
「……断捨離。してみるよ」
「どうあれ、私は貴方の選択について行きますから」
掃除とは、捨てたり洗ったりして綺麗にすることだ。でも、それは物だけに対する行為じゃなかったんだ。そこを理解してなかったから僕は掃除が下手だったのかもしれない。非効率だったのかもしれない。
203号が自身の長い髪を掬ってまとめると、はさみで一気に切った。切られた髪の毛はスーッと消えてなくなっていく。そうして、思いっきり笑って見せたのだ。
「まずは換気でもしましょう」
そう言って、彼女は窓に手をかけた。僕がいくら力を入れても開かなかったその窓はキュルルと音を立てて開いていく。そうして、外から光が、真っ白な光がこの部屋を包んだ。
最初のコメントを投稿しよう!