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「ちょっと、靴下履かないならスリッパ履いてっていってるでしょ」
「んだよ、後で拭けばいいだろ」
拭くのは私なの。
「拭けばって……足あとって残るんだよ。臭うし。手だって洗うんだから足もシャワーで流してきてよ」
ちまちまうるせえな、と文句を垂れる彼が萎んでいく。
だから残るって言ったのに。思い出すような行為は夜にしちゃダメだ。明日の自分に託して寝ようかとベランダ側に寝返りうつ。うったけど、気になって。唇を噛んで振り返ってもまだ足あとは残っている。
「んんん……」
だめだ。
唸っても答えは出ないし、このままではいい夢なんてとても見られない。でも正直いまから拭き上げするのは面倒くさい。
「――そうだ!」
むくっと起き上がって、靴下を脱ぐ。そうして一番近くの足あとに自分の足を重ねる。薄目にしたり、しゃがんだりしながら彼の足あとを追って、その上をぽんぽん渡り歩く。「ほっ、よっ」と妙な掛け声で誤魔化しながら、精一杯楽しげにする。残した彼の足あとを踏んで、別の記憶に塗り替える。悪くない。
「よっ……と」
たどり着いたのはテーブルのそば。足あとに沿って、彼の定位置に座ってみる。いつも片膝あげて偉そうに座ってたな。よくテーブル蹴っ飛ばして揺らして、お茶がこぼれて。ちょっとしたことで怒っちゃった、とテーブルの脚を撫でる。
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