記憶に変わる夢

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涙を拭きながら身体を起こしたら 「………悲しい夢でも見たん?」 泣き過ぎな私を圭一郎さんが気遣う感じが伝わって、あわてて首を横に振った。 「………反対。幸せな……夢でね」 話しながら、自分でも分からないけど どうしても涙が止まらなくて、上手く話せなくなる。 それでも圭一郎さんは 小さく頷きながら そんな私の話を聞こうとしてくれるから その優しさがまた涙を誘う。 「………圭一郎さん」 「ん?」 「……奥さんから……妊娠したって聞いた時の事 覚えてる………?」 私が泣きながら聞いた言葉に一瞬、え?って顔をしたけれど その顔はすぐに優しい笑顔に変わり 「めっちゃ覚えてる。 ………二人でケーキ食べたな、チーズケーキ」 懐かしそうな、その時を思い出してるようなそんな顔で話してくれた。 ………やっぱり 夢のようで夢じゃない あれは、奥さんの中の大事な幸せな記憶。 私が出逢う前の圭一郎さんを まるで自分が通って来た過去のように心の中に残してくれる 不思議な“夢”。 そう思ったら我慢出来なくて、ぎゅっと圭一郎さんに抱きついた。 「今……見たの。夢で……その日の事。 ケーキも……一緒に食べてた。 ……ブルーベリーいっぱいのってるやつ」 私の途切れ途切れの言葉を聞きながら またさっきの夢と同じ様に、包み込むように抱きしめてくれる腕。 「……笑わないの……?」 そっと離れて目を見たら 「……笑わへんよ。 ホンマにブルーベリーいっぱいやったからな」 そう言って、私の顔に残る涙を親指で拭ってくれた。
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