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✻Keiichiro✻
もう半年以上会ってない義理の父。
その半年前の電話で聞いた、オレに対する憎しみしかない声は、今でもずっと覚えてる。
そんな記憶を辿ってたら、調停委員の松川さんの話も耳に入って来なくて
「……松下さん?いかがですが?」
名前を呼ばれてハッとした。
「あ……は、はい。……すんません。
………なんでしたっけ……」
松川さんは嫌な顔ひとつせず
もう一度、心ここにあらずだったオレに
今話してたんだろう事を繰り返した。
「期間は一週間。
亡くなられた奥様のご実家、つまり申立人の方の所にですね、和輝くんを預けてみるのはいかがですか」
……え?
「……和輝を向こうの家に預ける?一週間もですか?」
思わず声が大きくなる。
「お孫さんである和輝くんと一緒に過ごしてみたいと、申立人からの提案なのですが……」
「いや、ちょっと待って下さい。
預けて、そのまま返して貰えないとか
そんな事になり兼ねないやないですか!」
身を乗り出して反論するオレに、松川さんは一枚の紙を差し出した。
“誓約書”と書かれたその紙には
一週間後には和輝を返す事
引き延ばし等は一切しない事が書かれ
義父のサインもされていた。
「松下さんが不安になる気持ちは勿論分かりますが、和輝くんの反応を見るのも必要だと思うんですよね」
"和輝の為に"
次に続く言葉はきっとそれだ。
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