先約あり

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今日中に仕上げなければいけなくなった資料を休出の社員で作り上げ このグループのリーダーでもある藤木さんが最終のチェックをして、なんとか指定時間内に提出完了になった。 「良かったなぁ、間に合って」 ボソっと藤木さんが呟いた言葉に、誰もがホッと一息。 そんな様子を見て藤木さんは笑って 「よし、じゃあこれで今日は解散。みんな、お疲れ」 一気に休出社員に広がる解放感。 見る暇も無かったスマホを覗き込めば、圭一郎さんからのLINEが来てて 『今から向かう! すんなり行けば30分かからんと思う』 時間は20分程前。 きっともう近くまで来てる。 返信するのも忘れて 「お先に失礼します」と1番にフロアを飛び出して、そのまま化粧室に直行。 こんな時だけど ほんの少し 今日だけは好きな人に会う 恋する自分になる。 口紅もいつもと違う色 チークも軽く入れて 後ろにひとつに結んだ髪もほどいて 髪から離れた、圭一郎さんから貰ったシュシュは手首につけた。 服もいつもとはちょっと違う感じにしてみたんだけど……気付いてくれるかな。 鏡に向かい大きく新呼吸をして、化粧室を出た。 すぐに右に曲がり、ビルの出口へと向かおうとしたら 「おい、待てって」 後ろからした声に振り向けば そこにいたのは藤木さんで 「……何かやらかしましたか……私」 足を止め、何かミスをしたのかと思って恐る恐る聞いた。 すると呆れたような顔をしながら、私の方へ近付いて来て 「そういう事、解散って言った後に個人的に言いに来ないだろ?普通」 そう言いながら、私の顔をジッと見る。 「昼メシ誘おうと思ったんだけど……。先約あり、か」 さっきまでの私との違いに気付いた……? 「先に押さえとくんだった」 藤木さんはそう言って、私の頭にぽんと手で触れた。
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