2020年 春

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2020年 春

1 誰が想像しただろうか、未知のウイルスに世界が脅かされているなんて。 誰が想像しただろうか、馴染みのある芸能人が亡くなるなんて。 誰が想像しただろうか、東京オリンピックがなくなるなんて。 私は想像しただろうか、この先起こるこの出来事を。  2020年春、私は晴れて社会人になった。 社会人というと聞こえはいいが、大学を順調に卒業してしまい、晴れてフリーターになったのだ。 おめでとう私、フリーは自由という意味だ。ターは知らん。 こんなんでも大学を卒業できるのだから、日本の大学はおかしい、もっと勉強させるべきだと心から思う。  大学生活はわりと楽しかった。 お世辞にも整っているとは言えない容姿だが、「清潔感を大切に、人の話をよく聞き(聞くフリをし)時々、本当に時々自分の主張をする、そうすればある程度の地位にはつける!」というモテ系YouTuberの教えを守り、髪色も派手にしてみたかったが、暗めの茶髪にし、眉毛もきちんと美容院で似合う形に整えてもらい、洋服も柄物ではなく清潔感のあるシンプルなものを揃えた。恥ずかしくない程度の大学デビューだ。 そんなかんじで言う通りにしてたらある程度の地位にはつけた。 人生初めての恋人もできたし、まさに人生の夏休みだった。  そんな懐古してても終わったものは終わったのだ。 コロナウイルスのせいで友人たちは、せっかく会社入ったのに自宅待機で暇だとSNSで呟いている、可哀想に。 まあ、私も私でバイト先の餃子屋が潰れるかもしれないと言う危機に面している、何も保障がないのがフリーターの辛いところだ。 でも私はまだ若い。今のところ病気もない。無症状でなければコロナウイルスにも罹っていない。店長には悪いが、お店が潰れても働く口はたくさんあるだろう。  平日は毎日8時半に起床し、9時半に電車に乗り、10時半に仕事を開始する。 米をとぎ、ホールやトイレの掃除をし、空気清浄機の水の入れ替えをする。 営業開始になったら、オーダーをとり、サラダなどの簡単な料理を作り、料理を運ぶ。その繰り返し。 一緒に働いている先輩は、世界で一番優しいのではないだろうかレベルで優しいし、お客さんとの会話も勉強になることばかりだ。  でも何かが足りない、何かが。大学生の頃から始めているこのバイト。 同級生たちは春になり、新しい環境の下頑張っているのに、私は何も変わらない毎日。嫌なら就職しろという話だが、就職はしたくない、夢があるから。 だったら文句を言うなって?わかってる。うるさいなあ、うるさい。 こうして自分の頭の中で会話をする。皆はしないのだろうか。 もししていなかったら恥ずかしいので確認なんてしたことない。 19時にバイトが終わる。これもいつも通り。 いつも通りのこの通りを通る。この一文で三つの「通る」がある、外国人がこの文をみたら「日本語難しい」って言うんだろうな。なんてくだらないことを考える。  
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