第3章:夏の夕暮れ

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「佳織が嫌がっているのを見て、すごく興奮した。佳織の感じてる顔をもっと見たいなって思ったから、あんなことした。軽蔑されるかもしれないって思ったけど、自分を制御できなかった。それについては、すごく反省してる」 「別に、反省しなくても良いけど……あんな気持ちになるのは、春樹くんだけだったから」  誰かが来るかもしれないって思ったけど、それ以上に春樹くんにもっとして欲しいって思っている自分がいた。それだけ、自分がエッチな女の子なんだってことだった。逆に、春樹くんに軽蔑されたりしないかなって思っていた。  春樹くんに触れられていた部分に意識を向けると、体の至る場所が疼いているような気がした。あのまま最後まで春樹くんに犯されていたら、一体どんなことになってしまっていたのか、私には想像できなかった。 「佳織、こっち来て。ここなら、他の人の目に留まらないと思うから」 「こっち?」  春樹くんに手を取ってもらった先にあったのは、広場の階段を降りた先にある川辺だった。広場に背を向けると、小中学生の合唱は既に終わっていて、代わりに夏祭り特有のBGMが流れて来ていた。  そんなBGMを遠くに聞きながら、川辺にはほとんど人影は見当たらなかった。小さな小川のほとりにはいくつかのベンチが設置されていて、散歩をしている人たちの休憩場所になっているようだった。いつの間にか太陽が山陰に沈みそうになっていて、辺りは徐々に夜の帳に満たされようとしていた。 「オレは、佳織に出会うことができて良かったと思ってる。本当は、もっと早く話しかけたかったけど、なかなか勇気を出すことができなかった。部活が終わって、いよいよ高校生活も残りは受験生としての日々を残すだけだって思ったら、今を逃したら佳織と一緒になれるきっかけを作り出すことができないって思った」 「……春樹くんがそう思っていたなんて、夢にも思っていなかった。春樹くんは栗原くんと一緒で、サッカー部の中心的な人物として周りの人たちから頼りにされていた。周りの女の子たちは、みんな春樹くんや栗原くんを応援していたし、そういう目で見ていたと思う。栗原くんには美紅ちゃんがいたから、段々と春樹くんに向けられる女の子の視線が多くなっていったのが分かった。だから、私は春樹くんのことを近くで見ていられれば良いかなって思ってた」  栗原くんと美紅ちゃんが恋人同士である以上、私も栗原くんとは何度も話したことがあった。けれど、時々栗原くんと一緒にいた春樹くんとは、一緒に話せる機会が一度もなかった。春樹くんは冷静沈着なイメージを持たれていたし、私の方も勇気を出して春樹くんに話しかけることが出来なかった。話したとしても、どういう話題を出せば良いのかが分からなかった。
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