エピローグ:手紙

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エピローグ:手紙

「お兄ちゃん、宿題手伝ってよぉ。来週から学校なのに、全然宿題が終わってないんだけどぉ」 「計画的にやらなかったお前が悪いんだろ。受験生のオレが、どうしてお前の宿題に付き合わなくちゃいけないんだよ」  夏休みも終わりに差し掛かった8月の下旬。リビングで参考書を読みふけっていると、妹の香菜がバタバタと2階から駆け込んできた。 「そんな酷いこと言わなくたっていいじゃん! サッカー部のマネージャーで忙しかったんだから、しょうがないでしょ」 「……へぇ。お前、サッカー部のマネージャーだったのか。それは知らなかった」 「ムカっ! 数か月だけとはいえ一緒の夢を追って活動していたっていうのに! お兄ちゃんなんてもう知らない! お兄ちゃんが佳織さんと付き合っているってこと、休み明けにみんなに言いふらしてやるんだから!」  捨て台詞を吐き捨てて、香菜は再び2階へと戻って行く。そんな香菜の騒々しい足音を聞きながら、オレは再び参考書へと視線を戻す。  夏休みの始めに佳織と一緒に夏祭りに行ってから、オレたちはほとんど会う機会がなかった。学校が無いというのもあったし、快人と白石の補習が終わったということもあって、オレたちが学校や街中で会う機会が無くなってしまったからだ。お互いに受験生ということもあって、あまりお互いの勉強の邪魔にならないようにと、オレたちはお互いを気遣っていたのだ。  もちろん、夏休みの街中で誰と遭遇するのかが分からない以上、地元でやすやすとデートなんか出来るはずもなく、オレも佳織もお互いに会いたくて仕方が無いといった様子だった。 「……もしもし? 佳織?」 「良かった。勉強の邪魔かと思って、電話するの躊躇っちゃった」  テーブルの上に放置していたスマートフォンが振動すると、オレは間髪入れずに素早く反応する。古典的であったが、佳織からの着信は他の着信とはBGMを変更していたのだ。というよりも、佳織以外は共通のBGMなんだけど。  オレが勉強するときにスマートフォンを近くに置かないことを、佳織は知っていた。スマートフォンが近くになると気になって勉強に集中できないことを知っていたオレは、勉強するときにはスマートフォンを自分がいる部屋に置かないようにしていた。自室で勉強するときはリビングに置き、リビングで勉強するときは自室に置くようにしていた。
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