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「全然大丈夫。休憩しようかなって思ってたところだったし」
読んでいた参考書をテーブルの上に置き、スマートフォンを自分の耳に押し当てる。そうすることで、佳織の声をもっと近くで感じることが出来るような気がしていたから。
「春樹くんの声が聞きたくなって、電話しちゃった」
「そっか。オレは佳織に会いたくて仕方がないんだけど」
「春樹くん……私も会いたいよ」
電話越しに聞こえてくる佳織の切なそうな声を聞いて、オレはスマートフォンを握る手に力を込める。
思えば、あの日も今日みたいな真夏の日だった。どうして今になってそういうことを思い出してしまうのかが分からなかったけど、もしかすると佳織の声がどことなく想起させるきっかけになっていたのだろうか。
「また今度、遊びに行こうよ。もうそろそろ夏休みも終わっちゃうし、その前に佳織ともう一度遊びに行きたいな。最後の夏休みだし」
「うん、行きたい! 春樹くんと行けるなら、どこでも空けておくから」
パッと明るくなった様子が伝わってきて、思わず自分の口元も緩んでしまう。
それだけ、佳織がオレの事を信頼してくれている証拠でもあったし、オレが佳織の事を信頼している証でもあった。
「でも、この前みたいなエッチなことはしちゃダメだからね?」
「ダメなんだ? 佳織は気持ち良さそうな顔してたから、良いのかなって思ってたけど」
「ダメ……あんなことされたら、またおかしくなりそうになるから。そういうことをするときは、ちゃんとしたところで、春樹くんと2人っきりのときが良いな」
「……あんまりそういうこと、オレの前で言わないでよ。本当に我慢できなくなるから」
佳織の言葉は、まるで魔法のようにオレの理性を崩壊させてしまう。佳織の感じている顔や声を思い出すだけで、自分自身がおかしくなりそうになってしまう。見境なく佳織を襲ってしまいそうになるため自制をしているつもりではあるが、そんなものは佳織の前では簡単に消し飛んでしまう。
「じゃあ、また今度」
「うん。勉強中にごめんね。また今度」
佳織と次に会う約束をして、オレはスマートフォンをそっと耳から離す。電話の先にいた佳織がどんな顔をしているのかと思うと、居ても立っても居られないような感覚に囚われてしまう。
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