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「これは熊だよ。危険な生き物だ」
「ふうん。でもなんだかすっかり凍ってしまって動かないよ」
白練は熊の白い雪を払う。そうすると濡羽色の毛皮に覆われた生き物が冷たく凍りついていた。白練はそのままもぞもぞと熊に覆い被さり体温を移し始める。しばらくすると熊からすっかり強張りはとれ、静かな寝息を立て始めた。2人がしばらく熊に寄り添っていると、熊はうっすらと目を開き、姉妹を見て、目をさらに大きく開けて驚きを示し、少し後ずさった。
「よかった、起きた」
熊は慌てて周囲を眺めて、おそるおそる視線を2人に戻す。
「……家に入れて助けてくれたんだね。ありがとう。君は誰?」
「私たちは真朱と白練。あなたは?」
「俺は……この姿の名前はない。もともとは人間だった」
その熊はその少し青みを帯びた檳榔子黒の高貴な目で2人を見つめて言った。
2人と1匹は朝まで一緒に眠りについた。それから夜になると熊は最初はおそるおそる、そのうちすすんで2人を訪れるようになった。2人は母親以外の者に会うのは初めてで、すべてが驚きに溢れて新鮮で、夜を徹して一緒に遊び、さまざまな話をした。熊にとってもこの姿になってから親しく触れ合える者はいなかった。
そんな2人と1匹の姿を母親は戸惑いながらも見守った。
「俺がこの姿になってから恐れられないのは初めてだ」
「私たちも母さん以外の人と話すのは初めて」
「最初はすごく驚いた。でも白練の絹のような肌は滑らかで真朱の唇は熱く朱くてとても美しい」
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