3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
幸せとは何か。(一)
特別何かが好きなわけじゃないけど、でも特別嫌いなものもない。
友だちはいないけど、つくる意味もわからない。
なんにでも意味をつけたくて、考えて考えて、考え続けてしまう。
そんなだから私はずっと、孤独だった。
だけど別に、寂しくはなかった。
あの日まではーー。
「では、今日は幸せについて考えましょう」
水曜日の最後の授業は総合と道徳。いつもテーマが決まっていて、私はいつもそれを楽しみにしていた。
南先生の優しい笑顔を見ながら、先生の言葉を反芻する。
ーー幸せとは何か。
そんな当たり前なことを今まで考えてみたことがない自分に驚く。そしてにんまりと笑った。
「しばらく退屈しなさそう」
小さく呟くと隣の男の子がチラッと視界の端でこちらを見た。私もチラッと見返す。
「なに?」
「……別に」
彼はそっけなく言って、本当に何も言わずに前を向いてしまう。「なんなのよ……」といいながら私もまた、前を向く。
彼は小鳥遊くんという。クラスの中でも物静かで、めったに話しているところを見ない、ちょっと変わった男の子。
私も誰かと話すことがないから、ひとりぼっち仲間みたいなものだ。
だけど私は彼のことをあまり好きにはなれない。
なぜかというと、彼はあまり、笑うことがないからだった。
「さ、プリントをみてちょうだい」
先生の声に遅れてやってきたプリントの一番上には、今回のテーマを書く空欄があった。
「幸せとは何か。今日は一人で考えて、書き出してみましょう」
黒板に大きく拡大されたプリントの内容に、先生が見本として書いていく。
それをじいっと目に焼き付けるように見てから、プリントに目を落とす。
「……私の思う、幸せ」
空欄を見つめながら思った。
ーー幸せって、なんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!