幸せとは何か。(一)

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

幸せとは何か。(一)

 特別何かが好きなわけじゃないけど、でも特別嫌いなものもない。  友だちはいないけど、つくる意味もわからない。  なんにでも意味をつけたくて、考えて考えて、考え続けてしまう。  そんなだから私はずっと、孤独だった。  だけど別に、寂しくはなかった。  あの日まではーー。 「では、今日は幸せについて考えましょう」  水曜日の最後の授業は総合と道徳。いつもテーマが決まっていて、私はいつもそれを楽しみにしていた。  南先生の優しい笑顔を見ながら、先生の言葉を反芻する。  ーー幸せとは何か。  そんな当たり前なことを今まで考えてみたことがない自分に驚く。そしてにんまりと笑った。 「しばらく退屈しなさそう」  小さく呟くと隣の男の子がチラッと視界の端でこちらを見た。私もチラッと見返す。 「なに?」 「……別に」  彼はそっけなく言って、本当に何も言わずに前を向いてしまう。「なんなのよ……」といいながら私もまた、前を向く。  彼は小鳥遊くんという。クラスの中でも物静かで、めったに話しているところを見ない、ちょっと変わった男の子。  私も誰かと話すことがないから、ひとりぼっち仲間みたいなものだ。  だけど私は彼のことをあまり好きにはなれない。  なぜかというと、彼はあまり、笑うことがないからだった。 「さ、プリントをみてちょうだい」  先生の声に遅れてやってきたプリントの一番上には、今回のテーマを書く空欄があった。 「幸せとは何か。今日は一人で考えて、書き出してみましょう」  黒板に大きく拡大されたプリントの内容に、先生が見本として書いていく。  それをじいっと目に焼き付けるように見てから、プリントに目を落とす。 「……私の思う、幸せ」  空欄を見つめながら思った。  ーー幸せって、なんだろう。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!