幸福とは何か。(十)

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幸福とは何か。(十)

 さっきの幸福を”偽り”だと言うなら、きっとここに来たのは”真”の幸福だった。  「子供の幸福」「健康である幸福」「両親を愛する幸福」「青空の幸福」「春の幸福」ーー。  彼らは光そのものだった。そして彼らは言う。  元々チルチルたちの近くにいたのだ、と。  さらに「大きな喜び」たちもやってきた。だが、それまでの「幸福」とは違い、笑顔がなく、「正義である喜び」は不正が改められたときに笑うが、その瞬間は滅多に訪れない。  「善良である喜び」なんて、「不幸」に寄り添える共感性を持っているがゆえに、とても悲しそうだった。  結局チルチルとミチルはその国を後に、再び旅へ出た。 「これはわかる気がするわ」  特に正義である喜びだ。  本の中でよく、いじめられている女の子を救った人たちは、確かにその瞬間笑っていたのだ。だけどその後過ごす中で、結局助けた人に裏切られて、笑わなくなった話もある。  いっときの感情の起伏、なんて言えば、いよいよ悲しいものになる。 「……これは、知らなかった」  ぽつり、と彼が言った。  彼に目をやれば、彼はぼんやりと絵本に描かれた絵を見つめている。 「どうかしたの?」  声をかけるも、彼はただ、フルフルと首を横に振った。  そのまま何も言わず、ページをめくる。
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