幸せとは何か。(二)

1/1
前へ
/14ページ
次へ

幸せとは何か。(二)

 後半授業の大半を、カリカリと響く音を聞くだけで終わった。  幸せとは何か。きっと答えがあるはずだと悩んんでいても、何もピンとこなかった。  ホームルームを終えて、ぼんやりとノートやプリントをしまう。 「――小春さん」  ふと先生が私を呼んだ。  ハッと顔をあげると、もう教室には私しか残っていない。 「帰らなくていいの?」  先生の言葉に小さな声で、帰ります、と返す。  そそくさと物をしまうが、ペンケースを何度も落としてしまった。  先生はまだ、そこにいる。 「――幸せとは何か」  最後のファイルを入れたところで、先生が言った。  つい顔をあげて先生を見る。先生は、私ではなく、手元にあるプリントを見つめている。 「小春さんは、幸せって、なんだと思う?」 「え……」  てっきり答えを言ってくれるのかと思ったのに、と拍子抜けする。  すっとこちらを見た先生は、静かに輝く目で、私の答えを待つようにただそこにいた。  だけど私は何も言わず、先生から目を逸らすこともできずにいた。  ……答えはまだ全然、わからなかったからだ。  先生は目を細めて、また優しく笑った。 「――難しいけど、大切なことだから。よく考えて答えを出してね」  帰り道に気をつけて、と言い残し、先生は教室を出て行った。  本当にひとりになった教室には、掛け時計が一定のリズムを刻む。その音だけが響いていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加