3人が本棚に入れています
本棚に追加
幸せとは何か。(二)
後半授業の大半を、カリカリと響く音を聞くだけで終わった。
幸せとは何か。きっと答えがあるはずだと悩んんでいても、何もピンとこなかった。
ホームルームを終えて、ぼんやりとノートやプリントをしまう。
「――小春さん」
ふと先生が私を呼んだ。
ハッと顔をあげると、もう教室には私しか残っていない。
「帰らなくていいの?」
先生の言葉に小さな声で、帰ります、と返す。
そそくさと物をしまうが、ペンケースを何度も落としてしまった。
先生はまだ、そこにいる。
「――幸せとは何か」
最後のファイルを入れたところで、先生が言った。
つい顔をあげて先生を見る。先生は、私ではなく、手元にあるプリントを見つめている。
「小春さんは、幸せって、なんだと思う?」
「え……」
てっきり答えを言ってくれるのかと思ったのに、と拍子抜けする。
すっとこちらを見た先生は、静かに輝く目で、私の答えを待つようにただそこにいた。
だけど私は何も言わず、先生から目を逸らすこともできずにいた。
……答えはまだ全然、わからなかったからだ。
先生は目を細めて、また優しく笑った。
「――難しいけど、大切なことだから。よく考えて答えを出してね」
帰り道に気をつけて、と言い残し、先生は教室を出て行った。
本当にひとりになった教室には、掛け時計が一定のリズムを刻む。その音だけが響いていた。
最初のコメントを投稿しよう!