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幸せとは何か。(三)
帰り道、私はちょっとだけムッとしたまま俯いて歩いた。
「先生は私の事、ちっともわかってないんだわ」
わかっていたら、考えろ、だなんて言わないもの。……まったく、仮にも担任の先生なのに。
ひとり言を繰り返しながら、家への道を歩く。だがふと、思い立って脇道に逸れた。
空はまだ青く、雲も波に揺られる船みたいに浮かんでいる。
こんな日は家に帰る前に散歩をして、一度頭を整理するのが吉だ。
前にお父さんがそう言って、よく私を散歩に連れて行ってくれた。小学校に入る前の、あの自由な時間があった時に。
誰かにこの趣味を教えたことはない。……そもそも話す友達もいないわけだけど。
ずんずんと歩いて行き、現れた緩やかな坂を登っていく。軽く息が切れたところで上がりきり、右側に公園が見えた。
止まることなく公園の中に入ったあと、その場ですうっと深呼吸する。
「うーん、やっぱりここの空気は格別ね」
ほんの少し高いところにあるだけで、子供の心惹かれるようなものは何もない。だけど緑が多くて、空気がさっぱりしているのだ。静かでいいところでもある。
「まあでも、一番好きなのはやっぱり――」
道に飛び出した木々をかき分けて、公園の端へと顔を出した。
瞬間、目に飛び込んできたのは、大きな太陽の日差しと、ほんの少し目下にある住宅街だった。
そこには壊れてしまいそうな、小さなベンチが一つだけ置いてある。
私以外知らない秘密の展望台……のはずだった。
「え、人……?」
だけどそこには、人影があった。
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