幸せとは何か。(四)

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幸せとは何か。(四)

 思わず足を止めて、そこにいた人物をじっと観察する。  男の子だった。静かに本を読んでいるらしく、時折ぱらっとページをめくっているのが見える。  タイトルは見えなかったけど、分厚い文庫本だから、きっと頭がいいのかもしれない。  隣に置いてある黒いリュックも革だった。着ている制服も私の知っている男の子の制服よりずっと綺麗なのだ。  だけど、深い海の底みたいなマフラーも、雪みたいなニット帽もなぜか汚れている。なのにそのままにしているのが、違和感を感じた。  とはいえ、声をかけることはしない。一人の時間を邪魔されるのがどれくらい嫌なことなのかはよく知っているから。  仕方ないので、来た道を戻ろうと足を動かす。  だがパキッと音を立てて、足元にあった枝を踏みつけてしまった。 「あっ」と同時に声を出してしまってから、あわてて振り返る。  ――注意していたはずだったのに。  途端にまた、動けなくなった。 「――そこに誰かいるの?」  声変りの済んでいない高い声とともに、びっくりするくらいキラキラしている目が、こちらを見て止まったからだ。 「女の子?」  男の子が首を傾げて、読みかけの本を閉じる。 「えっと……」  逃げたくても動けずそこにいると、突然男の子は、ふんわりと笑った。 「初めまして、こんにちは。ここは君の場所?」
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