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幸せとは何か。(五)
私は首を横に振った。
「ここは、私の好きな場所だけど、私の場所じゃないわ」
私だってもう中学生なのだから、公共の場というものをちゃんとわかっている。
だが、彼は私の問いに、まるで嬉しそうに微笑んだ。
「好きな場所か。……うん、ありがと」
ふわっと彼の方から風が吹いてきて、前髪が揺れる。
少し目を細めると、彼がふとこちらに手を伸ばした。
「そんなところにいないで、こっち来なよ」
「でも、読書の邪魔はしたくないわ」
だから今日は諦めようと思ったのだが、彼は腕を下げて横にずれると「ほら、座れるから」と笑った。
断り続けるのも良くないと、私は渋々彼のところに向かった。
ふと目に入ったのは、彼の膝の上にある本のタイトル――。
「青い、鳥……?」
つい聞くと、彼は「うん、青い鳥だよ」と言った。
「もしかしてこの本、好き? チルチルとミチルの冒険旅行」
だが、残念なことに私はこの物語を知らない。
少し俯いて、ごめんなさい、と返す。
「タイトルは知ってるけど……」
「ああなるほどね」
彼はちょっとだけ苦笑してから、本の表紙をそっと撫でた。
男の子と女の子、そして青い鳥が描かれた絵は、光を反射する。
「僕も実は、ちゃんと読んだことがなかったんだ」
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