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幸せとは何か。(六)
「え?」
聞き返すと、彼は撫でる手を止める。
「有名だから内容は知ってたんだけど」
やっぱり気になって買っちゃって、まだ読んでいないのだと彼は言う。
私は首を傾げた。
「でも、さっき」
私が後ろから見ていたときは、確かに本を読んでいたようだった。
彼にそう言えば、ふっとまた笑う。
そして本を音もなく開くと、パラパラとページをめくった。
「君が来た時は途中にある挿絵を見ていたんだよ」
言いながら止まったページの絵を指さす。
描かれていたのは、男の子と女の子が、鳥かごを持って夜道を歩いていくところ。
……確かに、思わず目を止めてしまうほど、淡く綺麗な絵がそこにあった。
納得して頷く。と彼はふいに、そうだ、と声を出した。
「せっかくだから一緒に読まない?」
「え?」
もう何度聞き返したことだろう。
だが彼は嫌な顔一つせず、にっこりと笑ったまま。
「読書は誰かとしても楽しいものだからさ」
どうかな、と首を傾げる彼。
「私にはわからないけど……そういうものなの?」
「そういうものさ」
会って間もない人だったが、そう確信を持って言われると、そんな気がしてしまう。
私は案外単純なのかもしれない、と思って少し笑った。
吹いた風が、優しく頬を撫でて、遠くへと去った。
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