ONE

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 研究所の地下に巨大な宇宙船が眠っている、という噂を律子に聞かせたのは後輩の夏海だった。お昼のカップ麺の蓋をめくりながら、夏海は話した。 「だから、これは古参の研究員にとっては公然の秘密なんですよ」  何でそれを一年目のあんたが知ってるんだ(七年目の私が知らないのに)、と律子は思ったが、黙っていた。  研究所の昼休み、中庭のベンチに二人は座っていた。京都の郊外に位置する、情報科学とロボット工学に関する大規模な研究所である。田園地帯に囲まれた広大な敷地の中に建つ、いくつもの棟が組み合わさった巨大で入り組んだ建物の、その奥深くに二人はいるのだけれど、ベンチは青空の下、明るい森に囲まれている。実は完全な室内にある中庭だが、奥行きのある開けた空間と青空が投影され、オープンスペースのように見えていた。まるでどこにでもある公園のように、並木道を人々が語らいながら散策している……その多くは顔見知りの研究者たちだが。犬を散歩させている人までいる……何らかの実験用に飼われている犬だろうけれど。ロボットたちも行き交っている……ゴミを拾って回るお掃除ロボットや、人々に飲み物や軽食を提供するサービスロボット。みんな、この研究所で開発された技術を元にした製品たちだ。  そんな中庭の舗道に面したベンチに、律子と夏海は並んで腰掛けていた。律子は自分の弁当箱を開けながら、夏海の「特大」カップ麺のサイズに呆れていた。 「宇宙船って何? UFOってこと?」と律子は聞いた。 「そうですねえ。巨大な円盤型の物体って言うんだから、そうなんでしょうね」  言って、夏海はカップ麺を啜った。 「そんな大きな円盤を、どうやって研究所の地下に入れたの?」 「そこなんですよ先輩」  夏海は割り箸で律子を指差した。律子は飛んできた汁を避けた。 「宇宙船はね、後から入れたんじゃないんですよ。元からあったんです。逆に、宇宙船の上にこの研究所が建ったの」  麺を食べ食べ、夏海は説明した。  話は、戦争中だか戦後だかに遡る。今は研究所が建っているこの地は、当時は京都山地の奥深い山の中だった。地震だか豪雨だかによる地滑りがあって、地中から巨大な金属の物体が姿を現した。それが、数万年前だか数億年前だかに地球に墜落して、ずっと地下に埋れていた、異星人の宇宙船だったのだ。 「あやふやな話ねえ!」 「そこはほら、噂話って奴ですから」
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