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「掃除、するかぁ」
年の瀬のある日、暖房のあまり効かない部屋でひとりごちた。年末の大掃除をやらねば、やらねばと思いながらいつも年越しギリギリになってしまうのが自分だった。なんでも後回しにしてしまうのは悪い癖だ。しかし現代は大まかな床掃除は床を掃いて回る掃除ロボットにやってもらえて、だいぶ楽な世の中になったものである。一人暮らしで狭い部屋でもずぼらな自分にとって掃除ロボットは強い味方だった。
まずはロボットが掃除できるように床に置いたままの物を整理しなくてはならない。それほど散らかっているというのは恥ずかしいことなのだが、どうしても人を呼ぶときにでもならないと本気で掃除する気が起きない性分だった。
部屋を見渡すといろいろな企業の会社概要があちらこちらに置かれていた。ふぅ、とため息をつきながら、それらを一箇所にまとめる作業に入る。
もう大学四年生の冬である。春には就職しなければいけないというのに、なかなか内定まで漕ぎ着けずにいた。書類選考は通り、面接までは進むのに、面接で落とされてしまうのだ。四年生の春先はがっつりと毎日何かしらの就職活動をしていたが、一度最終面接で落ちてから気力がぷっつりと切れてしまい、夏以降なかなか真剣に取り組めずにいた。
残念ながら採用は見送ります、今後の活躍をお祈りしますという不採用通知、いわゆるお祈りメールを受け取るたびに、まるで自分は社会に必要ない、と言われているようで苦しかった。どうせこちらの活躍など祈ってなんかいないのだろう。
就職氷河期とはいえ、早い人は夏前には就職活動を終えて、残りの学生生活を気ままに遊んでいるというのに、自分ときたら部屋の掃除すらせず、ただダラダラと冬休みを過ごしていた。そんな自分に嫌気がさす。内定を獲得していく周りの友人たちを見て気持ちは焦るが、焦りにより余計に緊張してしまい面接でも空回りして、悪循環だ。どの企業でも、御社で自分の◯◯の力をどうこう活かして役立ちたい〜だの、御社の方針に共感した〜だの、似たようなことばかり話していて、何が本当の自分の気持ちなのかわからなくなってきていた。ただの二十歳そこらの、働いたこともないがきんちょが大層な力など持っているわけがないというのに、口先が上手い人は自分を良く見せるのが得意なのだろうなどとひねくれたことも考えてしまう。
そんなことを考えながら物の整理をし、床がすべて見えるようになったので、ロボットの電源をつけた。ウィーン、と音を立てて動き回り始める。部屋の床掃除をロボットにやってもらっている間、台所で洗い物をすることにした。
すると、洗い物が終わる頃、部屋の方からガシャンと音がした。水を止めて見に行くと、どうやら棚にあった箱が落ちて中身が散らばったらしい。その散らばったものの中心でロボットがガガガッ、ガガガッと音を立てていたので、落ちたものが詰まってしまったのだろうかと、一度ロボットの電源を切って、吸い取ったゴミを確認してみた。
一見ゴミしか見当たらないので、何かと思ったが、一つ、引っかかっているものがあった。
一本の、アイスのあたり棒だった。
(そうだ、これは――)
細い棒を握りながら、淡い青春を思い出す。
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