04.少年

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「部屋、なんですけど。僕ら男で地下のスタッフルーム、知本さんとサラ殿でおっきい方の倉庫使う形で良いですか?」  竹志(ちくし)がそう言った。  「サラ殿」と、(はる)は反復して、笑う。  そして、「別にどこでも大丈夫です」と答える。  竹志の顔に、笑顔が広がる。 「よっっし!じゃあ、僕!畳で寝ます!」  スタッフルームは、入ったすぐの所で靴を脱ぐ様になっていて、一段上がった所がフローリング、奥に1人分の畳が敷かれている。  倉庫は、倉庫ではあるが、塵も埃も見当たらない位に清潔で、薄暗くもない、普通の部屋だ。  予備らしき椅子やソファーが置かれているから倉庫と呼ばれるだけである。  陽も、先程案内してもらったので、店の間取りと部屋は何となく覚えた。  1階の、調理場のすぐ横に階段があり、そこを降りると地下1階。  地下1階は、その3分の2を倉庫やスタッフルームが占めている。  竹志の言葉に、晄良(あきら)が口を開く。 「俺も畳が良いです」 「何で。庭瀬君は座布団並べて寝なよ」 「嫌ですよ。畳が良いです」 「俺も畳が良い!俺に座布団使わせたら、後のやつ皆、板間で寝る事んなっちゃうぜ~。俺、脚長いから、座布団全部使うかんな」 「同じ位でしょー。僕と仁科さん」  竹志が背伸びをしながら言う。  竹志が背伸びをしても、仁科(にしな)には届いていなかった。 「今時、短足なんていませんよ」 「えっ、庭瀬君、いるでしょ短足は」 「誰です?」 「課長」  竹志がニヤニヤと言う。  「言いつけますよ?」と笑いながら言うと、竹志は「庭瀬君も言ってましたーって、巻き込んでやる」と言う。  晄良は苦笑する。  「あのー」と、染谷(そめや)が口を開く。 「僕も畳で」 「うっわ、新たなライバル~。これは腕相撲で勝負だなっ」 「それ、ヒャクパー、仁科さん勝つじゃんっ」 「んなことねぇしっ。俺、か弱いんぞっ」 「説得力、ねー」 「んだとぉ!?」 「や・か・ま・し・わっっ!」  サラが、丸めた新聞紙で竹志、晄良、 仁科、染谷の頭を叩く。 「もう、辺りが暗くなってきておるぞ。そろそろ、晩御飯の支度をせねばならぬ」  晄良達が、渋々といった様子で会話をやめる。 「あれ、水出ない。電気は通ってるよね、照明ついてるし」  そう言うと、晄良は顔をしかめた。 「洗い物、できないね。天然水使うのも、何かなぁ……」  陽は頷いて、冷蔵庫を開ける。 「中の物、使っちゃって良いかな?」  晄良は、「良いらしいよ」と、笑う。    * 「うわぁーーー!」  そう叫んでいるのは、竹志だ。  先程から竹志は、ハイテンションである。  陽達は、「カフェ・ヒヨコマメ」の庭で、火を囲んで座っていた。 「何ですか、さっきから奇声あげて」  陽が苦笑気味に問う。 「そーだよ。気持ち(わり)ぃ~」 「テンション上がりますよっ。独身でずーーーっと彼女いないんですよ、僕! 独り身じゃあこんなこと出来ないですよぉ」  竹志は両手に持つ竹串を握りしめた。  竹串にはソーセージとキャベツが交互に刺されている。  竹志のそれは、良い具合に炙られ、ソーセージの肉汁がしたっていた。 「大袈裟ですよ」 「でもこれ、すげぇ旨い」  仁科が嬉しそうに言った。 「そういやさぁ、皆、彼氏or彼女いるの?」 「僕はいないです」 と、染谷が言う。 「庭瀬君は、彼女いないし……」 「何で決めつけるんですか!」 「えっ、じゃあいるの?」 「いませんけど」 「ほら! いないじゃん」  竹志は笑う。 「知本さんは?」 「へ?」  突然の質問に、間抜けな声が出てしまった。 「彼氏いるの?」 「いないですねー。年齢イコール彼氏いない歴ってやつです」  陽は淡々と言う。  「別に彼氏は要りませんし」と、付け加えた。 「庭瀬君ドンマイ」  竹志が言う。 「何で俺が失恋した事になってるんですかっ」  晄良が苦笑気味につっこむ。 「だって怪しくない? 幼馴染みだよ? 運命の恋が始まるとか。え、ない? ないかなぁ。もしかして僕、ロマンチストなの?」  「ロマンチストですね、それは」と、晄良が笑う。 「まぁ、でも、気を取り直しまして。独り身組として、皆で頑張っていきましょぅ!」  竹志が竹串を掲げてそう言う。 「まぁてまてまてまて!」  そう、仁科が止める。 「俺、いるよ?か・の・じょ!」 「えー? 怪しっ」  竹志がニヤニヤと言う。 「どこがだよっ。俺、嘘ついてねーよ?」 「あ、二次元?」 「違ぇっつぅーの!」 「じゃあ、最近会ったの、いつよ? あ、夢の中でー、とかはなしですよ? 現実世界オンリーで」  竹志は楽しげだ。  仁科は神妙な顔で指折りをした。  その表情には、何故か見覚えがある様な気がした。 「えーっと。にじゅう、ご!25年前!」 「25年前!? 25日前じゃなくて?」 「うん、25年」  竹志は目を見開いて、それから腹を抱えて笑いだした。 「仁科さん、それ、ないない!フラれてますっ」 「はぁ!? んな訳あるか!」  「ないない!」と、竹志は笑い転げた。  サラは、無言で串焼きにかぶりついていた。念のためリードを付けてあるヴィセンテは、可愛らしい鳴き声を小さく上げて、クイッと首を傾げた。  その時、足音が聞こえた。  微かに、だったが、確かに足音がこちらに近づいて来ているのが分かった。  仁科とサラも気づいた様だった。  陽は、黒のサイドポーチから小型のライトを取り出し、立ち上がる。  「カフェ・ヒヨコマメ」の横の道路には、電灯はあるものの、間隔が広いため暗く、誰が来ているか見るのには役に立たない。  小道に出ると、足音は止まった。  ライトで照らすと、一瞬白く人のシルエットが写し出され、徐々に色彩が付け加えられてゆく。  その人物は、くるりと回れ右をする。  靴がコンクリートと擦れて、砂利を踏んだ時の濁った音がした。
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