ストライクだったのに

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ストライクだったのに

 とある父親、啓発本を読んだ。 『思考したい欲求があるときに、テーマがみつからなければ、子供に何か尋ねてみるといい。子供の返事が、テーマになるだろう。』  父親はさっそく中学1年生の息子に尋ねた。 「なあ、お前はこの世から何が消えたら、いちばん困ると思う?」  まだ素直な息子は、真剣に考え始めた。  父親は期待した。  息子は言った。 「ゴミ箱。」  父親は、ぽかんとした。 「あ、ああ、そうだな。確かに困るよな。」  そして、先ほどまで読んでいた啓発本を読むのをやめて、昼寝を始めた。  一方、息子は思い出していた。  小学校卒業後、はじめてデートというものをした春休みのことを。  テロ警戒でゴミ箱がひとつもなく、飲み物やお菓子の袋などのくずゴミを手に持ったままのお花見になってしまい、散策はムード台無しだった。  もうあんなデートはたくさんだ。  ゴミ箱を無くすテロなんて起こらないでほしい。当然のようにゴミ箱がある、平和な世の中がいい。  そんなことを考えていた。
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