のどに住みついたもの

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のどに住みついたもの

 小6の彩月は最近なんだか、喉がずっとスッキリしない。  のど飴をなめたり、外出から戻ると必ずうがいをするようにしたけれど、一向にスッキリしない。 「お母さん、私、ちょっと病院で診てもらいたい。」  そうして病院へ行った。  先生は問診のあと、「ちょっと喉見せてくださいねー」と言って、ペンライトのようなもので喉を見た。 「え!?……ああ、失礼。」  先生はなぜか、ひどく驚いた様子だった。  彩月の不安顔に気づいてか、先生はにこやかに言った。 「いい知らせがあるよ。」  待ち合い室で待っていた母親も呼ばれ、先生は言った。 「彩月ちゃんね、喉に『こぶし』が住みついてるよ。」 「え?」 「こぶし?」  まさか、腫瘍の塊か? 母親は青くなった。  先生は母親に片手をふりながら言った。 「今まで見たことのない、いいこぶしだ。  娘さんにはぜひ、演歌の道に進むことをおすすめします。」  彩月と母親は顔を見合わせた。 「でも、あの、違和感があるのがいやなんです……」  彩月が言うと先生は、 「住みついたばかりみたいだからね。じき慣れるよ。」  帰り道で彩月は母親に言った。 「これも才能っていうのかな?」  母親は言った。 「才能……っていうか……。まあ、恵まれたことは確かね。歌の教室、通ってみる?」  彩月は考えたあと、 「うん!」 とうなずいた。  演歌歌手といえば、素敵な着物やかんざし。  彩月はおしゃれをしたい年頃だった。
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