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職歴を活かして
八神はファーストフード店でのアルバイトを経て、地元の駄菓子屋に就職した。
店内は狭く、棚だらけで、一目では全体を見ることができない。
しかし、駄菓子屋に監視カメラなんて不似合いだ。
八神は現店主のおばあちゃんとレジ脇の椅子に座ってお茶を飲んで店番をしながら、時々店内を回った。
ある日のことだった。
おばあちゃんが風邪を引き、八神が1人で店番をすることになった。
学校の授業中は客もなく、八神はレジ脇のいつもの席でぼんやりしていた。そして、客のいない店内をたまに回った。野良ネコが入ってきて商品を荒らすことがあるからだ。
何度目だったろう。
八神は通り過ぎようとした棚の陰に、人影を見つけた。
八神が立ち止まると、人影が驚いたようにふり向いた。
まんまるに見開かれた目と、上がったまま固まった眉。
その口に、うま〇棒。
八神はほとんど反射的に言っていた。
「店内でお召し上がりですか?」
人影(大人)は、上がった眉をさらに上げたあと、うんうんとうなずいた。
「ごゆっくりどうぞー。」
親切すぎるスマイルを残した八神が通り過ぎると、人影は走って逃げていった。
「よっぽど腹減ってたんだろうな……」
八神は自分の財布を出して、うま〇棒1本分の会計をした。
あの客が来たら、またそうするつもりだった。
だがそれっきり、現れなかった。
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