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男女の友愛
光子には、小学校の同じクラスに、気になる男子がいた。
着ている服はいつもヨレヨレ、遊んでいるときにできたすり傷は、翌日になっても手当てされていた試しがない。給食は人一倍食べる。そして勉強熱心。そんな男子だ。いろんな意味で住んでいる世界が違うと感じられた。
自覚はなかったが、芽生え始めていた母性本能をくすぐられていた。
そんなある日の朝、日課の占いを見ると、『いつもおとなしいあなた。たまにはビシッといってみよう!』とあった。
たまにはビシッと、か。
そんなカッコいいことできてたら、こんなに地味に生きてないよ。
光子はそう思いながら通学路を歩いていた。
すると、一軒の家の前で、あの男子がしゃがんでいた。
何をしているのだろう? ふしぎに思って塀の角から見ていると、なんと、牛乳の配達箱から牛乳を取り出したではないか!
察した光子は走っていってその手首を掴んだ。
そして牛乳をひねり取って箱に戻し、手首を掴んだまま走り出した。
だいぶ走ってから、光子はようやく手を放した。二人ともゼイゼイ息が切れていた。
「な、なんだよ、おまえ! 朝飯の邪魔しやがって!」
光子も怒鳴った。
「ばか! 何が朝飯よ! あれは立派な盗みです!『せっとう』って言うのよ!」
「知ってるよ、そんくらい! わざわざ言うな!」
怒鳴り返してきた男子は、涙目だった。
光子はしばらく言葉を失ったが、言った。
「明日から、一緒に登校しよう。」
「へっ。監視か。」
「ちがうよ! あたしのおやつ代で食わせてやるって言ってんの! ……あたしは鍵っ子だからね。おやつ代はたっぷり渡されてんのよ。朝、コンビニに寄ろう。」
男子はまじまじと光子を見た。
「おまえ……太っ腹だな。」
「太ってなんかいないわよ!」
男子は笑い、
「じゃあ、毎朝荷物持ってやる。」
と申し出た。
「え、まじで?」
「食わせてやってるなんてツラは、ごめんだからな。その代わり、学校のある日は毎朝だぞ。腹へってたら、勉強にならねえからな。」
「おう、まかせろ!」
「男の約束だ。」
男の約束? あたし女子なんだけど。
光子は思ったが、つまらないツッコミはせず、片腕をガッツポーズにしてガシッと組んだ。
こうして、光子は気になる男子と仲良くなった。方向性がちがう気もしたが、毎朝荷物を持たせてパンと飲み物を一緒に食べる日々は、かなり楽しかった。
男子は多くは語らなかった。
光子も自分からは訊かなかった。
「おまえ、どこ中に行くの?」
「たぶん、私立。」
「まじで? 一緒に勉強されてくれ。」
「受験勉強?」
「ちげーよ。おれは普通のとこしか行けねえから。入学したら、私立の勉強教えてくれ。」
「復習になるわね。お安い御用よ。」
二人がマブダチになるのに、時間はかからなかった。
ドラマも映画もユーチューブも観ない。そんな世代だった。
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