アメを食べる?大人

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アメを食べる?大人

 真奈子は、お母さんが妹の臨月に入院したので、その間おばあちゃんの家に預けられた。ちょうど、離乳食から普通食になった頃だった。  おばあちゃんは教えてくれた。 「まなこちゃん、食べるいうんはな、よく噛んでごっくんすることをいうんやで。」 「うん、わかった。」  ある日、真奈子がおばあちゃんの家の前で遊んでいると、隣のおばちゃんが出てきて、 「まなちゃん、アメ食べる?」 と言った。  真奈子は首を傾げた。 『たべる』っていうのは、『よくかんでごっくんすること』だよね? アメはかたくてかめないし……。  真奈子は言った。 「たべないけど、なめる!」  おばちゃんはぽかんとしたあと、 「そうやな、アメはなめるやな。まなちゃん、日本語に厳しいなあ。」 と笑った。  真奈子はおばちゃんがなぜ笑ったのか、よくわからなかった。  アメを受け取るとき、訊いてみようとしたけれど、「ありがとう」を言ったら、おばちゃんはすぐ買い物に向かってしまったので、訊きそびれてしまった。 「おばあちゃん、まな、きょう、にほんごにきびしいっていわれたよ。」  夕飯のときに言って、言われたときのことを説明しようとしたら、先におばあちゃんが、 「ははは、日本語に厳しいか。ええことや。」 と言って話を終わらせてしまったので、また訊きそびれた。  真奈子は、うまく言えないモヤモヤがたまるのを感じた。  原因は大人と子供のペースの違いにあったが、2才の真奈子にそこまでは分析できない。 「まな、はやくみんなとあそびたいな。」  ちょっと不機嫌にそう言うのが、精一杯だった。  『みんな』とは、地元の歳近い友達のことである。
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